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髙橋銑

CAST AND ROT


髙橋銑(たかはし・せん)は、1992年東京都に生まれ、東京芸術大学美術研究科彫刻専攻を2021年に修了しました。彫刻表現に要する技術を礎に、映像作品やインスタレーション、食用の飴や香油など、様々な素材の持つ特性を最大限活かし、作品制作に意欲的に取り組んでいます。主な展覧会に二羽のウサギ / Between two stools、The 5th Floor(東京、2020年)、Sustainable Sculpture、KOMAGOME SOKO(東京、2020)など。修士課程修了を機に、一層注目を集める若手アーティストです。

髙橋が初めて本格的に美術に触れたのは、教育機関や制作活動ではなく、仕事で携わったブロンズ彫刻の修復作業でした。多くの場合、何らかの素材を使い作品制作を通して、自己表現をしていくことが芸術活動の始点となるのが一般的でしょう。しかし髙橋の場合は、朽ちかけ、元の状態が壊れる前兆のある作品に対峙し、それを修復するという稀有な体験が始まりとなりました。直すという行為と同時に、そのものの終焉を想像すること。彼の作品表現には常に事物の終わりに対する身支度や、振る舞いを感じさせます。それは作家自身の存在そのものに向き合う場合でも例外ではありません。ヴァニタスや諸行無常など、ヒューマニズムのまなざしではなく、ただそこに事物が存在するのと同じように、制作した自身の作品さえ、いつか失くなることを受け入れながら、存在の不確かさを静観し、作品へと表現しています。

今回の個展では、ブロンズ彫刻に用いられる保存処置を野菜のニンジンに施したCast and Rotシリーズの新作群を発表します。経年劣化のスピードが大きく異なるブロンズ彫刻とニンジンを、無理やり同じ時間軸に当てはめたとき、そこでは何を失い、何が残っていくのでしょうか。
LEESAYAでの初めての個展となります、髙橋銑のCAST AND ROTを是非ともご高覧ください。

作家ステートメント

  本シリーズは僕が近現代彫刻の保存・修復に携わってきた経験から着想を得て、単なる実験としてニンジンに対しブロンズ彫刻に用いられる保存処置を施したことから始まる。一般にブロンズ彫刻に対する保存処置は中性洗浄剤で洗浄、完全乾燥、その後ワックスコーティング、適宜磨き上げ、という順序で行われる。それらの工程を全てニンジンに対して行うと、どういうわけかとても腐りづらいニンジンが出来上がる。

 といってももちろん限界はあって、何も手入れしなければ2年目あたりからは湿気があると赤カビが発生するし、環境が悪いと虫が発生したりもする。一方で僕が保存・修復に携わるなかで触れてきたブロンズという素材は人間が滅んでからも1千万年以上のこるという人もいるほど恒久性の高い素材として認識されているらしい。しかしそれは単なる物質としてみたときの話であって、「鑑賞物」として見れば恐らく保存処置がなされない状態で2年くらい放ったらかしにすれば、大抵の場合、鑑賞の邪魔をするような腐食が現れる。

 僕はブロンズのような「のこる」とされるものたちを、干物のニンジンと同じ程度の時間の感覚で見てしまうことがある。そんな気分の時は、そういえばニンジンも大地に植物の生を注ぎ込んで作られるのだからまるで鋳造みたいだ、だなんて連想まで始めてしまう。

 鋳造(= cast)しては腐って(= rot)いく。「のこる」という言葉が指し示すところはいったいなんなのだろうか。物心がついた頃にはもう使っていたはずの言葉との付き合いかたを、僕は未だわからないままでいる。

髙橋銑

CAST AND ROT