LEESAYA

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金光男

Control Control


 金光男(きむ・みつお)は1987年大阪市に生まれ、2012年には京都市立芸術大学大学院を修了します。在学中から精力的に制作を続け、卒業後は「VOCA展2014」奨励賞を、2016年には「京都市芸術新人賞」を受賞します。2014年、金沢21世紀美術館での注目の若手アーティストを個展形式で紹介する企画「APERTO」では、第一回目のアーティストに抜擢されるなど、国内外で活躍しています。

 金はシルクスクリーンの技法を応用し、パラフィン・ワックスによってパネルにイメージを定着させています。モノクロのイメージは金自身が撮影した写真を使用しており、彼の眼差しをそのまま映し出します。転写されたイメージにあえて熱を加え、溶けて崩れながら固められた作品は、在日コリアン3世として日本に生まれ育った、自身の社会的な不安定さや曖昧な状況を投影しています。彼の作品群からは、現代において非常に多くの人々が共有し得る様々な感情を重ね見ることができ、これは金光男の作品を語る上で重要なポイントと考えます。

 金はこどもが生まれたことをきっかけに、三重に移り住みます。大阪、京都と都心部に住み続けていた彼にとって、自然豊かな環境は否応なしに生活に大きな変化をもたらしました。それまで必要のなかった草刈りや移動、自然との対峙は想像以上に生きる力を試されることとなります。作品を通して、自身の不安定さや、不自由さに対峙し続けてきた金にとって、範疇を越えた自然の猛威は彼の作品制作にも影響を与えます。

 人は誰でもネガティブな要素をなるべく排除し、解決に向かう向上心を持ち合わせています。経済や政治、災害、人間関係など、人類は様々な局面でそれらを克服し続けてきました。しかし圧倒的な力を前にした時、それに打ち勝つのではなくいかに共生していくか、活路を見出し進化し続けてきた生物の強かさも時として必要になります。田舎での暮らしは金にそのことを改めて気づかせるきっかけとなりました。

 今回の展覧会では、金光男の眼差しを通して考え続けてきた世界の光と影を改めて見つめ直します。コントロールのできない液体化したワックスの上でインクが分解し崩れる様をいかに制し、享受し得るのか。新境地に立った彼のさらなる躍進の一手となることをご期待ください。

 1周年を迎えますLEESAYAにて、6年ぶりの開催となり満を持して臨みます、金光男の個展「Control Control」を是非ともご高覧ください。

作家ステートメント

 地方に暮らし始めて数年が経ちました。 妻の祖父母が暮らしていたその土地と家は、以前暮らしていた家と比べると畑や庭があり広く住みよいのですが、雑草が生い茂っており、そこに蚊や色んな昆虫、生き物が住み着きます。

 これまで雑草と無縁に暮らしてきたので、戸惑いながらもその雑草を丹念に草刈機で刈り、整えるも、また数日すると夜露で湿った雑草が自分の足に触れ衣服を濡らすくらいに生い茂ります。

 この雑草たちは困ったことに自宅の土地を超え隣人宅まで生息地を広げていきます。 コンクリートで区画された場所だと、どちらから進んで領域を侵した雑草なのか一目でわかりますが、元農地の境界線があやふやな土のままの場所があり雑草の生育を静観していると、面する土地の所有者に除草剤がまかれ、何故か不快な気分になったり。雑草はすぐまた生えてくるのですが。

 どこかの国で敵対している首脳が会った時も草刈りをしていました。壊れやすいヘリが上空を飛んでいくときも草を刈っていました。眼前の雑草の問題… ある日、本に草刈り達人の言葉を見つけました。

 そこには「土が見えるまで刈るな。浅く刈った雑草で地面に光が届かないように刈れ。」光合成ができないように葉を刈り、刈った葉で地面を覆い生育が遅くなり、刈った葉は分解され腐葉土になる。目から鱗。さすが達人。雑草との付き合い方への勘違い。のび太くんが草をむしるように、土が見えるまで刈らなければいけないと言う思い込み。その土地に根付いた雑草は簡単には駆逐できる筈もなく、付き合い方を変え共生する道。
 同時に光と陰の重要性。見る角度、視点を変える事の重要性。

 見えていた蜘蛛の巣が太陽光によって見えなくなり、蜘蛛の糸が顔に纏わりつく奇妙さ、視認できていないのに知覚される糸。蜘蛛の糸を取り除いた後も残るあの感覚のような。

金光男

Control Control