田中秀介
有様のほぐしくらべ
-
- PRESS RELEASE
WORKSINSTALLATION VIEWS
田中秀介(たなか・しゅうすけ)は1986年和歌山県に生まれ、2009年に大阪芸術大学美術学科を卒業。現在は大阪を拠点に意欲的に制作活動を 続けています。
2022年には大阪市立自然史博物館にて、田中秀介展:絵をくぐる大阪市立自然史博物館を開催し博物館という特殊な場所性を活かした展示で大変注目を集めました。またVOCA展2023出展や、令和5年度咲くやこの花賞を受賞するなど、活躍の勢いの増すアーティストです。
田中の描く画面は一見何の変哲もない日常の風景の中で出会った、驚きや感動の瞬間を捉えます。しかしよく見ると画面には大きくデフォルメされたサイズ感のおかしいモチーフや、劇的な鋭いパースの建物、出鱈目のプロポーションの人物が描かれており、不思議な事象が巻き起こっています。彼のプライオリティは「正しく」描くことではなく、あくまで自分の感情を残すことであり、それは絵画だからこそできることなのだとギャラリーは考えます。
田中は以前からよく空を描いてきましたが、最近やっと描きたい空が描けるようになってきたと話します。空や雪、光や水など、形のないものを描くとき、その場所の空気や湿度、匂いがまるで画面から伝わってくるかのように観賞者の記憶に結びつきます。田中の描く日常は鑑賞者にとって、どこか懐かしい知らない景色でありそれは日常に隠されたユートピアを思わせます。
展覧会初日は作家も在廊予定です。田中秀介の個展「有様のほぐしくらべ」を是非ともご高覧ください。
作家ステートメント
日々、あらゆる物事に出くわしては驚き、心が揺さぶられている。物事には様々な様態があり、即ち多種多様な驚きと日々出くわし、それを解釈し、絵として腑に落としている。解釈とは、私にとってその驚きを描く事で、出くわした物事だけを見たまま描くことではない。何をどの様に驚いたか、何を思い、考え、察したかが肝要となる。
と言いつつも、近年とても大きな驚きが続き、それを私はうまく解釈出来ていない事に気づいていた。その驚きは物事に向ける眼差しをも変化させる程であり、つまり更新された眼差しで物事と対峙しているが、それを解釈する心身が過去のままの感覚であって、ちぐはぐさを抱き暮らしていたからだ。そんな中、個展のお話をいただいた。
これは良い機会だと思った。このちぐはぐさを取っ払おうとする事で得れる経験や動力は大きなものだと察しがつくし、その過程の中で描くべきものを描きたい様に描けたなら、私の中で何かが一つにまとまる気がした。
今回はこれまでと違い、事情があってかなり前に展覧会タイトルを付けなければならなかった。漠然とまだ見ぬ絵が展示されている光景を思い浮かべ、「有様のほぐしくらべ」というタイトルを捻り出し、それが指針となった。早々にタイトルや指針を打ち出せた事は今回において好適だったと思う。
さあ、それではどうしようか。よくわからないが兎に角ほぐしてくらべなければ始まらない気がするので、出くわした驚きをできるだけ取りこぼさず、また詳しく確認して、よりもの思いにふけまくる事にした。そんな事を繰り返していると、自ずと敬遠している驚きがある事にも気がついた。それは例えば、亡き祖父が愛した故郷を一望できる場所に、彼と同じ様に立ち眺め、そこの光景と出くわしたり。子が置きっぱなしにした、行く末のない未完の折り紙から思う事であったり。確かにそれらの光景はこれ迄にも目にしていたが、解釈してしまうと自身の中で何かが大きく変わってしまう様な恐ろしさがあり、敬遠していたと思う。いや、半ば解釈途中であり最後のもう一押しが必要であって、今回の機会で描く事が出来た。
こうしてなんやかんやを経て、絵が出揃った。今回の描く姿勢である、出くわした驚きをできるだけ取りこぼさず、また詳しく確認して、よりもの思いにふけまくる結果、一つ一つ差のある物事や驚きを描く事ができた。この雑多な絵画群を私は求めていた。なぜならこれらを描き揃える事は、結果的に現実の豊かさと直面し続ける事であって、現時点において意識的に取り組まなければならない事であったからだ。
田中秀介