青木航太
Deformable Candle Vase
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青木航太(あおき・こうた)は1985年茨城県に生まれ、2007年に京都造形芸術大学(現・京都芸術大学)美術工芸学科日本画コースを卒業。2010年に東京藝術大学大学院修士課程壁画研究室を修了。現在は茨城県を拠点に制作活動を続けています。青木は在学以前から日本画やフレスコ画、テンペラ画など様々な絵画技法に取り組んで来ましたが、近年は培った知識と技術を活かしつつ、紙や漆喰に墨を使った絵画をメインに制作しています。
本展で初めての発表となる Deformable Candle Vase シリーズは、2011年に青木が営む美術予備校で指導をしている最中、被災した体験を元に描かれました。教え子達と共に近くの避難所で渡された一本の蝋燭の火を、当時の混乱した状況下でも鮮明に覚えていると作家は話します。東日本大震災から10年以上経って、最近ではやっと被災した人々の声を耳にする機会が増えてきたように感じます。それだけ彼らには「時間」が必要だったのかもしれません。
自然災害や人災、犯罪、戦争などを経験しトラウマを抱える人々が、心的外傷後ストレス障害(PTSD)を発症するケースはよく耳にしますが、一方でストレス反応とは別にトラウマの非常に辛い苦しみに向き合うことで人間として良い方向へ成長をもたらす心的外傷後成長 (PTG) という心理的変化が知られています。青木が「蝋燭」の火をひたすら描くことは、負を負のままに受け止めたり、負を正のエネルギーに変換できる芸術そのものの性質と役割を感じずにはいられません。
満を持して発表となります青木航太の個展 Deformable Candle Vase をぜひご高覧ください。
なお、2024年2月4日(日)には毒山凡太朗氏をゲストとしてお呼びし、トークイベント「それぞれがみる3.11」を開催いたします。ぜひお誘い合わせの上、ご参加くださいますと幸いでございます。
作家ステートメント
2023年1月20日、私はふとイメージが湧き上がり、花のような蝋燭の絵 A Vase of Candle #01 を描いた。そして、作品を客観的に観た時、忘却した記憶が呼び覚まされた。それは、避難所で支給され夜通し見続けた、火のついた蝋燭だった。2011年3月11日、私は茨城県水戸市の避難所で一夜を過ごした。避難所では、白くか細い1本の火のついた蝋燭が支給された。この一夜の体験をきっかけに、否が応でも自分自身が追求してきた自然観や表現がリセットされ、どのように再構築するかを迷い・揺らぎ・空転した。
ふと湧き上がった A Vase of Candle #01 のイメージはどこから出来たのだろうか。花は、古来より生の喜びを祝い、死者への手向けとして贈られてきた。そして蝋燭は、古代より暗闇を照らす照明器具として使用され、私が日々生活していく中では、先祖、故人に手を合わせるときに使われる。私が A Vase of Candle #01 を想像し絵画として表現出来たのは、愛や身体、死生観にまつわる意味を内包しているからではないか、そんなふうに思えてくる。花瓶の蝋燭に、日用道具や食べ物、生き物など、私にとって価値のあるもの、無価値なものを、年輪のように重層した墨の線で再構築することで、得体のしれない存在を可視化した。
本展のタイトルである Deformable Candle Vase は、私が日々生活していく中で現実に存在する具体的な事柄や物に対して、自由・不自由、気づく・気づかない、価値のある・無価値の二項対立ではない余白の中で、生命の神秘や自然の摂理を思考するために、さらなる工夫と変容を求めている。