LEESAYA

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金光男

グッド・バイ・マイ・ラブ


水曜-土曜: 12時-19時|日曜: 12時-17時
休廊日:月・火(祝日9月20・23日は17時まで営業)


金光男(きむ・みつお)は1987年大阪市に生まれ、2012年には京都市立芸術大学大学院を修了後、「VOCA展2014」奨励賞や「京都市芸術新人賞」を受賞。金沢21世紀美術館や、台湾での個展を開催するなど国内外で活躍しています。昨年、LEESAYAでの個展「Control Control」では作家として、父として奔走する日々の営みを、金独自の世界観で見事に表現し、大変ご好評をいただきました。

金はシルクスクリーンの技法を応用し、蝋を塗ったパネルにイメージを定着させています。転写されたイメージにあえて熱を加え、溶けて崩れながら固められた作品は、外国人として日本に生まれ育った、自身の社会的な不安定さや曖昧な状況を投影しています。

今回の展覧会では、金光男の現在地を考える上で、改めて作家自身のルーツについて見直すこととしました。戦時中多くの外国人が生活困窮など様々な理由から日本に渡来してきたように、金の母も5歳の頃に朝鮮半島から日本に渡ってきたそうです。金は母から様々な体験談を聞いて育ちました。中でも、道中お腹が空いたら食べるように、と一枚だけ渡されたビスケットを、幼い母がいつまでも握りしめていたというエピソードは金にとって強い印象として残っているそうです。

展覧会タイトルは金の母が好んで聴いていたアン・ルイスの「グッド・バイ・マイ・ラブ」から選びました。

グッバイ・マイ・ラブ この街角で
グッバイ・マイ・ラブ 歩いてゆきましょう
あなたは右に わたしは左に
ふりむいたら負けよ

歌の冒頭の一節から1948年の4・3済州島事件と、1950年に始まった朝鮮戦争の勃発、母親が日本で暮らすこととなった経緯を母の愛した歌に重ね思い馳せます。

社会の多様性に対する許容も進み、人種や国籍を問わず様々な人々が自由に行き来できるとされている時代に、いまだに難民問題や紛争は世界の課題として大きく横たわっています。どうしようもなく接続されてしまう社会の円環や、遠くの国で起こっているリアリティの希薄さをはじめ、金の作品群からは、現代において非常に多くの人々が共有し得る様々な感情を重ね見ることができるでしょう。金光男の個展「グッド・バイ・マイ・ラブ」を是非ともご高覧ください。

作家ステートメント

ジャンクのカヌーを買い、緑だったボディーを真っ赤に塗り変えた。池や湖で赤の方が映えると思ったからだ。腐った木を取り払いヒビ等を一年かけて修復した。大型フェリーやボートにはそれまで幾度も乗った事はあったので、大した差はないだろうと思いながら乗艇し、漕ぎ出すとなんとも言えない気持ちになった。水面近くを水を切りながら進むカヌーを漕ぎながら様々な考えが浮かぶ。人類が舟を手にいれた事。風や水の流れによって真っ直ぐ進まない事。全然魚が釣れない事。そういえば自分の祖父母が海を渡ってきた事。当事者からの話では無く、又聞きで人から聞く昔話はどこか脚色されていると感じながら、それを信じてしまう事。当事者の話ですら曖昧な記憶と感情で脚色されていると感じながら、信じてしまう事。勝手に自分の頭の中で悲惨に書き換えてしまう事。緑のカヌーを真っ赤に塗り変えてしまった事。そもそも赤色が苦手な事。ビスケットを持たせ幼い子供を泣かないようにする事。漁船の船倉に潜り込み夜の海を渡る事。日本人の妻と息子と漠然としたこれからの事。

グッド・バイ・マイ・ラブ