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毒山凡太朗

Let There Be Light −光あれ−


毒山凡太朗(どくやま・ぼんたろう)は1984年福島県に生まれ、2011年3月11日に発生した東日本大震災と東京電力福島第一原子力発電所事故によって、故郷である福島の状況が一変したことをきっかけに作品制作を開始しました。

2015年に制作した千年たっても という映像作品では、彫刻家であり詩人でもある高村光太郎の詩集智恵子抄 内のあどけない話 という詩をモチーフに、毒山自身が安達太良山の山頂で豪雨の中、「この上の空がほんとの空です!」と叫び続けます。発電所事故後すぐに避難のため他県への移住者が多くいた中、故郷に残ることを決意した人々の「覚悟」を感じさせます。同年帰還困難者の暮らす仮設住宅で、住民と共にお面作りのワークショップを行い、仮の住まいから故郷を指差す姿を映した作品あっち は「被災者」として一括りにされた彼らのもどかしさや、帰ることのできない望郷の念を表現しました。

故郷である福島を皮切りに、自分が今まで学び信じてきたことは本当に正しかったのか、を検証すべく沖縄、台湾、韓国、瀋陽、長春、ハルピン、サハリン等、日本の遺恨の地に実際に赴き当事者の話を聞くことで、それぞれの歴史や教育、宗教や風俗など様々な情報に対しリアリティを持って作品制作に取り組んできました。

多角的な視点で日本、ないしは自分自身を取り巻く社会について考察してきた毒山は震災から10年、福島のありのままの現状をめぐるツアープロジェクトIGENE を2021年から4回にわたり開催しました。全国から集まった参加者と共に、立ち入り制限が解除され新しい家屋が立ち並び伝承・復興へと向かっていくエリアや、未だ被災直後と変わらず手付かずの場所等、福島県内の被災地を見学する内容です。ツアー内では国の補償制度の話や避難先での体験、元いた場所あるいはその周辺に戻ってからの暮らし、原発に対する思いなど、区域内に住んでいた住人から実際に話を聞くプログラムも組み込まれました。ツアープロジェクトは今後も長期的視野で継続されていく予定です。

作家活動を始めて今日まで一貫して、実際に現地に赴き当事者の話に耳を傾け、歴史からこぼれ落ちる人々の記憶や感情と向き合ってきた毒山凡太朗が、本展では「復興」をテーマに新作群を発表いたします。どんなに困難な状況であっても光に向かって生きていく他ない人間の性と根源的な強さ、相反して濃い影を落とす圧倒的な現実。様々な視点で戦後日本を考察してきた作家にとって重要な展覧会となることでしょう。

毒山凡太朗の個展Let There Be Light −光あれ− を是非ともご高覧ください。

作家ステートメント

2021年、久しぶりに帰省すると光があった。

あの震災以来閉じたままの雨戸は開き、それまで蛍光灯のみだった居間には太陽の光が差し込んでいた。

この10年はとても長く、短い10年だった。


2020年夏、初めて帰還困難区域に入域した。復興に向けて居住の制限された区域の解除も進み、元の住処に戻ることが現実的になってきたのだ。しかしそこに昔馴染みの家があるとは限らない。多くは除染のために解体し、一帯が更地となった所も多い。同時に、帰還困難区域はまだ広範囲に広がり、帰還が叶わない人々もたくさんいる。

この12年、私は福島で様々な経験と思いをもつ方々に話を伺った。しかしそれは全体のほんの一部に過ぎない。立場や住んでいた場所、年齢などによっても考えや思いは異なる。復興への喜びと未来への希望を抱く者がいる一方で、未だ続く被害と進まない復興に絶望と苦しみ、悲しみと怒りを抱く者もいる。

光が強くなることで、影も強くなる。

復興はまだ始まったばかりだ。いや、始まったと言えるだろうか。

毒山凡太朗

Let There Be Light −光あれ−