LEESAYA

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山中suplex

血の塩/Salt of the Blood


山中suplex(やまなかスープレックス)は、2014年に京都と滋賀の県境にある土建屋の元資材置場を拠点に、「世界の価値観をひっくり返す」というコンセプトのもと設立された共同アトリエです。広大な敷地の中には、樹脂、金属加工、石彫、木工、陶芸などの立体表現をはじめ、大規模な作品を制作できる屋外スペースや、作品展示をできるギャラリーまで備わっています。

一般的にスタジオ存続において大きな弊害となるのが、制作に際して生じる臭いや、騒音、埃などに由来する近隣住民との確執と度々耳にします。国内にアーティストランスペースは数あれ、文字通り人里離れ山の中に存在する稀有な環境は、制作活動に集中できるのはもちろんのこと、山中suplexをはじめ、様々な場所で開催される彼ら主催のイベントや展覧会、ワークショップなどにダイナミズムをもたらし、たくさんの人が訪れ好評を博しています。

その中でも、昨年に行われたドライブイン展覧会「類比の鏡/The Analogical Mirrors」は大変興味深い試みでした。プログラムディレクターである堤拓也のキュレーションにより、スタジオメンバー11名と国外アーティスト4名が参加した、山中supelxの敷地をフル活用した展覧会です。来場者は車に乗ったままドライブスルーの要領で作品を鑑賞して周りますが、その間車から降りることは一度もなく、外部との会話や接触はほとんどありません。ペインティングや、立体作品、制作風景そのものなど、様々な要素で展覧会は成り立っており、特に映像作品はドライブインシアターのように大きなスクリーンで展示され、山に囲まれた会場の中で鑑賞する体験は非常に特殊なものでした。新型コロナウイルス感染拡大防止のために多くの文化事業及び、経済活動が自粛され、外部との接続を遮断し孤立を強いられた閉鎖的な社会状況そのものが、展覧会というメソッドに落とし込まれていました。社会の構造や、システムの体系を山の上から静かに見つめ、彼らのリアリティに引き寄せ、表現する柔軟性と機動力は、様々な事柄に対して「やらない・辞める理由」を探している現在の社会の価値観をひっくり返す可能性を秘めているように思います。

今回、LEESAYAで開催する「血の塩/Salt of the Blood」と、10月に行われる福知山での展覧会「余の光/Light of My World」の2部構成で、立体と平面、それぞれのディレクションからアート作品の体系について再考を試みます。

普段とは違う設えのLEESAYAにて、山中supelxメンバーのうち8名が立体作品を展示いたします。展覧会初日には関西から作家も在廊いたしますので、ぜひご高覧いただけましたら幸いです。

展覧会によせて

新約聖書・マタイによる福音書5章13-16節にある「汝らは地の塩、世の光である(Ye are the salt of the earth. Ye are the light of the world.)」という格言は、塩によってこの社会に味を付け、また腐敗を防ぎ、毒を抜く役割を果たす機能を持ちつつ、神の子のように世を照らし、叡智を資本に人々を導く唯一無二の存在になりなさいというイエスの教えである。本事業ではそのフレーズが示す構造を踏み台にした2つの展覧会を表裏関係のように扱い、前者では立体(塩/機能)を、後者では平面(光/啓蒙)をテーマとし、キリスト教を基礎とした近代・現代美術が内包する2つの美学性・倫理性の相対化を行う。

まず、LEESAYAでは、山中suplex「血の塩/Salt of the Blood」と題し、アーティストの手塩にかけられた、両手で握って受け渡し可能な棒状の道具を展示する。コマーシャルギャラリーという商用空間の特徴を前景化しつつ、先史時代、石器をつくるために振り下ろされた腕と、現代のアーティストが駆使する技術を重ね合わせ、自らの生より長く永続する棒状の人工品の形式性を再考する。つぎに、京都府域展開アートフェステイバル ALTERNATIVE KYOTO in 福知山では「余の光/Light of My World」と名付けられた展覧会を起点に、山中suplex以外のアーティストやキュレーターを交え、眼の時間と思念の積層物である絵画(あるいは平面作品)を扱う。聖書に印字された言葉を認識できない者のために添えられたイラストレーション=宗教画を起源に持つ現代のイメージを通し、主観と心象の複数性を顕在化させ、絵画の原理である永遠性について立ち戻る。

全世界共通の異物であるCOVID-19の存在を踏まえ、前者では感染を直接的に喚起するような「血」や「油」、「手」に着目し、芸術という人間的営みの前提である身体性を意識する一方で、後者では非命題的かつ詩的な領域に目を向け、芸術家が担ってきた「我」や「光」といった私的世界の表象物を展示する。


堤拓也(山中supelxプログラムディレクター)

血の塩/Salt of the Blood