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宮田雪乃

うなずき


 宮田雪乃(みやた・ゆきの)は 1986年三重県に生まれ、京都市立芸術大学大学院を修了後、主に京都で制作・発表を続けてきました。宮田の作品は一見、アクリル画のように色鮮やかで、ドローイングのように軽快な印象ですが、全て版画作品です。版画技法の中でも凹版画に分類される方法で、主に塩ビ板を彫り、プレス機でイメージを刷っています。塩ビ板は刷る際の圧力に弱いため数をたくさん刷ることができませんが、木版画や銅版画に比べてインクの発色が良く、独特のにじみが特徴です。

 宮田は今まで作品を通して、自身の「理想の町」を作り上げてきました。幼少期に誰もが一度はままごとや人形遊びをしたように、創造と破壊を繰り返す神のような存在として、「理想の町」は作家の思い通りに作品化されてきました。実際に存在しない風景や状況を作品を通して可視化していくにつれ、ある時、それは作家が生まれ育ったふるさと・三重の景色だったことに気づきます。眩しい思い出も、若かりし日の淀んだ感情も全て、逃れられない自身の一部として、根深く存在していることを改めて自覚し、受け入れ、「ふるさと」をテーマに作品制作を続けてきました。

 そんな中、近年の度重なる天変地異や気候変動は、宮田の作品制作に大きな影響を与えています。一夜にして様変わりしてしまった誰かの「ふるさと」を目の当たりにし、揺るぎなく存在し続けていた自分の故郷も、いつかあっという間に消えてしまうのではないか、という思いを抱きます。その不安や動揺を払拭するように、作家は作品制作に取り組みます。可視化し固定化することで、ふるさとという「理想の町」は彼女の中でより大きな存在へと変貌していきます。

 宮田の作品には花瓶や壺が度々登場します。彼女が生まれ育った三重県は、紀伊半島から東海地方を中心にほぼ全国にわたって甚大な被害をもたらした、歴史的な災害・伊勢湾台風を経験しており、作家にとっても潜在的に水に対しての畏怖が拭きれません。不規則に大水が押し寄せることへの不安を、花瓶や壺に収めることで、平静を祈る作家の心情が反映されているのかもしれません。

 東京で初めての個展となる、宮田雪乃の個展うなずきを是非ともご高覧ください。

作家ステートメント

2019年には子どもを授かった。生まれてきた子を見ていると、自分にも死がやってくることを感じられた。未来に生きる人間に出会ってはじめて自分のいる地点が認識できるのかもしれない。そしてオリジナル不在の生命の流れの中に自分がいることに、合点がいった。不思議と描く対象やイメージにまとまりがうまれてきたのもこの頃だ。

スタート地点しか知らなかったのかもしれない。ゴールは死ぬこと、そしてその先が続いていること。
その部屋には私はいない/見つけたならここからそこへ/何回でも会えるでしょう

宮田雪乃

うなずき