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田中秀介

烏合のふるまい


田中秀介(たなか・しゅうすけ)は1986年和歌山県に生まれ、2009年に大阪芸術大学美術学科を卒業。現在は大阪を拠点に意欲的に制作活動を 続けています。
昨年末、大阪市立自然史博物館にて、 田中秀介展:絵をくぐる大阪市立自然史博物館 を開催し博物館という特殊な場所性を活かした展示で大変注目を集めました。また、今春には VOCA 展 2023 に出展するなど、活躍の勢いの増すアーティストです。

田中の描く画面は一見何の変哲もない日常の風景です。どちらかといえば「絵にならない」「普通」の光景やモチーフが多く、そこにドラマティックな展開や光の演出はありません。人々にとって目にも留めないただの日常を描くことは、田中にとって世界を知るための手がかりを手繰り寄せるような行為です。その時感じた違和感がなんであったのか知るために、同じ場所に足繁く通い、撮影した写真を穴があくほど見続けます。そうして描かれた画面は田中秀介という人間の情動や視点、曲解さえも反映されるため、時に異様さを放ち、時にくすっと可笑しみを憶える「絵」になるのです。

絵画の長い歴史において、人々の日常生活の情景を描いた風俗画。そこには、身分や職業を異にする様々な人々の日常が、世界中で描写され続けて来ました。インフラが整った現代において、それでもなお画家が描かずにいられないのは、目の前にあるこの取るに足らない日常がどんなに儚く脆いものかを、痛いほどに感じているからかも知れません。

田中の描く作品を通し、鑑賞者は現代の空気を自覚し、作品は時代を記録する重要な役割を担うことになるでしょう。展覧会初日は作家も在廊予定です。田中秀介の個展 烏合のふるまい を是非ともご高覧ください。

作家ステートメント

ああ、何か良い事はないだろうか、と日々思い暮らしている。良い事とはどういう事なんだろうか。突発的に訪れる予測もしない出来事だろうか。いや、それは良い事とは限らない。そもそも良い事など人それぞれで、いや、ここで他人は関係なく自身が出来事をどう捉えているかであって、云々。あてもない事を考えながら夜な夜なほっつき歩く。
やがて橋に差し掛かる。何となく遠方の灯りの連なりに目をやりながら、歩を進める。橋の中腹、介抱される酔っぱらいがかすかに目に入る。何事かと歩み寄ろうとした時、男女一組が私の前を横切る。多分、今夜食べた物の話をしていた。耳をそば立てる間もなくすごい速さで自転車が通り抜け、それを少し目で追う。矢継ぎ早に繰り広げられるたわいもない事の連続に何故だか呆気にとられ、空を見上げると薄雲がささやかに月を隠していた。
私はこれら烏合の出来事に遭遇し、良い事があったと思った。思ったのも束の間、もう目の前に同じ良い事が繰り広げられる事はない。与えられた体感と取り残された印象を抱えながら、あの良い事を欲しいと願う。
なぜ良い事と思ったのか。何をどうすればよいのか。希求の末、体感と印象と現場を頼りに描き出す事となる。良い事を振り返りながら解釈を行い、体感と印象と現場を絵とし、形容し難いそれに名を付け、私が得た良い事を把握しようとしている。

田中秀介

烏合のふるまい